伸線加工(伸線)とは?

伸線加工(しんせんかこう)という加工方法は、聞いたことが無かった方が多いのではないでしょうか?

工業系出身の私自身も、今の会社に入るまで伸線加工という加工方法は聞いたことがなく、初めて知る金属の加工方法でした。

この記事では伸線加工について簡単ではありますが、どのような加工方法で、どのような仕組みなのかを紹介していきます。

目次

伸線加工とはどんな加工方法?

伸線加工とは、金属の線より少し小さい穴に通すことにより、細く加工する方法。のことで、単に「伸線(しんせん)」と呼ばれることが多いです。

引き抜き加工と呼ばれる場合もありますが、「引き抜き」と呼ぶ場合には巻き取ることのない管材などの中空品や棒材の加工方法を呼ぶ場合が多く、伸線加工と言った場合には巻き取ることのできる棒材・線材の加工方法のことを指すことが多いです。

伸線加工が使われているもの

あまり聞くことのない伸線加工ですが、実はあなたの身近なところの製品で多く使用されている加工方法なのです。

伸線加工された線が使われている例
  • 公園などにある金網
  • ノートのリング
  • ばね(ボールペンから車など)
  • 銅線
  • ロープウェイや吊り橋のワイヤー

公園の金網やノートのリングは樹脂被覆がされていますが、芯となっている中の鉄線は、伸線加工で細く加工されたものが使用されています。

車からボールペンまで様々なところで使用されている「ばね」や、電線に使用される銅線、また伸線加工を行うと鉄線が加工硬化により硬くなり強度が増すため、ロープウェイや吊り橋に使用されるような強度が必要なワイヤーも、伸線加工した複数の鉄線を撚って(よって)束ねたものを使用しています。

長く細い鉄線であれば、ほぼ全て伸線加工で生産されたものだと思って良いでしょう。

伸線加工というのは、あまり耳にすることは少ない加工方法ではありますが、あなたの身の回りのものを作るために実はよく使用されている加工方法なのです。

伸線加工の基本的な仕組み

一言でいうと「伸線用ダイスに線を通して細くする」これが伸線加工の仕組みです。

伸線ダイスと呼ばれる伸線加工に使う金型は、中央に精密加工された穴が開いており、このダイスの穴よりも少し太い鉄線を無理やり通すことにより、鉄線はダイスに押しつぶされながらダイスの穴径に加工されるというシンプルな加工方法です。

例えば線径が3mmの線を1mmにしたい場合には、1mmの穴が開いているダイスに線を通せば、1mmの鉄線に加工することができます。

実際には3mmから1mmに一気に加工することはできませんので、3mm→2mm→1mmのよう複数のダイスを通して徐々に細くしていきます。

線径をどのような順で細くしていくかを「パススケジュール」と呼び、ダイス1枚でどのくらい細くするか(減面率)を加工条件として設定する必要があります。

伸線加工で行えるのは丸い断面形状だけでは無く、異形線と呼ばれる丸以外の断面形状に加工することも可能です。

四角や三角にも加工することが可能となっており、自動車のモーターや発電機に使用される銅線は断面が四角に伸線加工された線を使用することで、丸い断面の銅線よりも無駄な隙間を無くして、銅線を密に巻くことが可能となっています。

伸線加工では切ったり削ったりせずに、材料を長手方向に変形させる加工方法なので、切削加工のように材料の端材や削ったときに発生する鉄粉が出ないため、材料の無駄が少ないというのも大きな特徴です。

伸線加工に必要な3つのもの

伸線加工を行うために必要となる代表的な3つの道具をピックアップして説明します。

もちろん専用工具やインフラなども必要なので、この3つを揃えただけでは伸線加工業はできませんが、わかりやすく大事なもの3つに絞りました。

伸線ダイス(金型)

ダイスの外観イラスト チップとケースの説明画像

先述しましたが、伸線ダイスとは金属の塊に穴が開いているだけの見た目をしているのですが、このダイスの精度によって、伸線した線の精度が決まってくるため、伸線加工にとっては非常に重要な金型となるものです。

伸線ダイスを切って断面を見ると入口が広く、だんだんと狭まっていく漏斗のような形をしながら狙いの線径を決める部分(ベアリング部)に向かい、そこを過ぎるとまた少し広がる形状をしています。

線が通る部分は「超硬合金」か「ダイヤモンド」が使用されており、多くの場合には安価な超硬合金ダイスを使用しますが、耐摩耗性や高い線径精度を求められる場合には高価なダイヤモンド製ダイスを使用します。

伸線ダイスは鉄線を常に押しつぶしているため、超硬合金やダイヤモンドと言えども徐々にすり減ってしまい、最初は1mmの線が出てきていたのに1.1mm→1.2mm・・・とだんだんと太ってくるため、定期的な交換が必要です。

伸線機

ダイスを通せば線が細くなることが分かったかと思いますが、それを数百~数千mという長さのものに伸線加工するための専用の機械が伸線機というものです。

伸線機は使用する潤滑剤によって大きく2つに分けられており、乾式潤滑剤を使用する乾式伸線機と湿式潤滑剤を使用する湿式伸線機があります。

ここでは貯線式の乾式伸線機についての説明をします。

伸線機の構造は単純で、ダイスをセットする部分とダイスを通った鉄線を巻き取る部分(ブロック)の2つで出来ています。

ダイスをセットする部分は潤滑材を入れる箱(潤滑ボックス)が付いており、その中を線が通ることにより潤滑剤を引き込みながらダイスへ向かっていきます。

それと同時にダイスのセット部分には冷却水が流れており、加工によって発熱したダイスを外側から冷却(水冷)する構造になっています。

巻き取り部分はダイスから出てきた線を巻き取る役割だけでは無く、内部には冷却水が流れているため線を巻き取るのと同時に冷却する役割もあります。

複数の伸線機を連結した連続伸線機の場合には、次の伸線機に線が供給されるまでの冷却が重要になるため、ブロックでの線の冷却は重要な役割です。

潤滑剤

切削加工では切削油をかけながら加工を行いますが、それと同じように伸線加工でも潤滑剤と呼ばれるものを使用して加工を行います。

潤滑剤は大きく分けて、サラサラした粉状の乾式潤滑剤と、水に溶かして使う液状の湿式潤滑剤があります。

乾式潤滑剤はダイス前にある潤滑剤入れ(潤滑ボックス)にいれて使用します。

粉状の潤滑剤の中を線が通ることで、潤滑剤が線に付着した状態でダイスに引き込ませることで、線とダイス間での潤滑性を出し、湿式潤滑剤は液体のため切削油に近いイメージで、線やダイスに直接かけることで潤滑性を確保します。

伸線潤滑剤がダイス内部で摩擦を減らしている様子の図

それぞれの使い分けは加工条件や線の用途によって異なりますが、太くてあまり加工精度がいらない線の場合は乾式伸線を、線径が細く高い加工精度を求められる場合には湿式伸線を使用する傾向があります。

また乾式潤滑剤を使用する伸線機と、湿式潤滑剤を使用する伸線機は構造が全く異なるので、乾式伸線機で湿式潤滑剤の使用はできず、その逆も使用することはできません。

伸線加工とは?まとめ

少しでも伸線加工とはどのようなものか、わかっていただけたでしょうか?

様々な刃物を使う切削加工や、ローラーを使う圧延加工などに比べると、伸線加工はダイスの穴に無理やり通してその穴の径にするという非常にシンプルな加工方法です。

シンプルゆえにダイス内部の角度(リダクション角)や、パススケジュールなどの変更できる部分の設定が重要になってくる加工であり、突き詰めていくと伸線加工というのは奥が深い加工方法です。

ぜひ、このサイトで伸線加工に携わっている方はもちろん、これから伸線加工に携わる方のお役に立てたらと思います。

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