伸線用潤滑材とは?【種類と役割を解説】

切削加工では「切削油」を材料と刃物にかけながら加工を行うように、伸線加工では「潤滑剤」というものを使用して加工を行います。

潤滑剤メーカー各社から何種類もの潤滑剤が発売されており、加工の条件によって最適な潤滑剤を選ぶことが伸線加工には大切です。

この記事では潤滑剤の役割や種類、最適な潤滑剤の選び方を紹介します。

目次

伸線用潤滑剤の役割

潤滑剤の役割は伸線加工中の線とダイスの間に入り込み、潤滑性を上げて摩擦を減らすことです。

伸線潤滑剤がダイス内部で摩擦を減らしている様子の図

もし潤滑剤無しで伸線加工を行うと、線と伸線ダイスが直接触れ合うため摩擦が大きく、加工熱に加えて摩擦による強烈な発熱により、ダイスの焼き付きや線の表面キズが発生してしまいます。

そして最終的にはダイスが破損し、伸線が行えなくなります。

酷い場合にはダイスの出口から火花が出てきます。

切削加工でも切削油無しで加工を行った際には、焼き付きという現象が発生します。

伸線用潤滑剤の種類

伸線用潤滑剤は大きく分けて3つに分類されます。

  • 乾式潤滑剤(かんしきじゅんかつざい)
  • 湿式潤滑剤(しっしきじゅんかつざい)
  • 油性潤滑剤(ゆせいじゅんかつざい)

それぞれの潤滑剤に特徴があり、用途に応じて使い分けられています。

乾式潤滑剤

乾いた粉状の潤滑剤で乾式伸線機に使用されています。

潤滑剤が溜まっている中(潤滑ボックス内)を線が通ることにより、線表面に粉状の潤滑剤を纏わせます。

そして潤滑剤を纏った線が伸線ダイスへ突入していくことにより、加工部分であるダイスに潤滑剤が供給されていく仕組みです。

乾式潤滑剤はダイスに入ったところで加工熱により溶解し、線とダイスの間に入り込んで潤滑膜が作られて、初めて潤滑効果が発揮されます。

そのため減面率が極端に低くかったり、線速が遅かったりすると溶解せず十分な潤滑効果が得られません。

湿式潤滑剤

液体状の潤滑剤で、水と規定の割合で混ぜて使用する水溶性の潤滑剤です。

伸線機の構造によって異なりますが、線とダイスにシャワーのように掛けるか、線とダイスを潤滑液に浸漬した状態で使用します。

伸線性は乾式潤滑剤には劣りますが、線に光沢が出るため、仕上がりの見た目が求められる製品での、仕上げ伸線に使われることが多いです。

湿式伸線は1mm以下のとても細い線で使用されることが多い印象です。

油性潤滑剤

名前の通り油の潤滑剤で、切削油と同じイメージの潤滑剤です。

金属光沢を出したい場合に仕上げ伸線として使用することが多く、潤滑性は乾式潤滑剤よりは劣りますが湿式潤滑剤より優れています。

潤滑剤の選び方

潤滑剤は配合されている材料の種類や比率によって、特性を変えたものが各メーカーから発売されています。

ここでは、そんな数ある潤滑剤の中から、最適なものを絞り込んでいく方法を2つ紹介します。

伸線温度で選ぶ

潤滑剤は各メーカーが多数の種類の潤滑剤を発売していますが、種類の多くなる理由の1つが伸線時の温度です。

伸線加工は鋼種や減面率ダイス角度などの加工条件により、発熱具合が異なるため、潤滑剤もその温度をに対して最適なものを選ぶ必要があります。

「耐熱温度が高いものだけあれば十分じゃないか」と考えてしまいがちですが、耐熱温度が高い潤滑剤は低い温度の加工では溶けてくれないため、十分な潤滑効果が得られません。

逆に耐熱温度の低い潤滑剤を、高い温度の加工に使用すると潤滑剤は溶けるを通りこして、焼けて炭化してしまい、こちらも十分な潤滑効果が得られません。

伸線時の加工温度に合わせた潤滑剤を選定する事で、伸線ダイスの摩耗を防ぎ交換の頻度を減らすことでランニングコストは下がり、製品の品質も上げることができます。

後工程の用途で選ぶ

伸線した線は熱処理やメッキなどの、後工程がある場合がほとんどです。

そのような後工程がある製品では、潤滑剤の選定を誤ると後工程の処理方法によっては、不具合が発生する場合があるため、後工程でどのような処理を行われるのかという面も、潤滑剤の選定時には考慮が必要です。

例えばメッキを行う場合には、メッキを付ける前に脱脂洗浄や酸洗浄などで線表面の潤滑剤やその他の汚れを落として、綺麗な状態にしないとメッキの剥離につながります。

そのためメッキを行う製品を伸線する潤滑剤は、メッキ前の前処理で綺麗に落ちるものを選定する必要があります。

伸線用潤滑剤とは?まとめ

この記事では伸線用潤滑剤の役割と種類、選び方を紹介しました。ポイントをまとめると以下の通りです。

  • 潤滑剤はダイスと線の潤滑を行うためのもの
  • 潤滑剤には乾式・湿式・油性の3種類が存在する
  • 伸線時の温度や後工程処理によって最適なものを選定する必要がある

潤滑剤はダイスと共に伸線加工には必須なものであり、重要な役割を持ったものです。

この潤滑剤の選定によって伸線性が大きく変化するため、最適な潤滑剤を見つけたら非常に大きな成果になるでしょう。

もしダイス寿命が短かかったり、伸線性で困っていたら潤滑剤の見直しを行なってみると良いかもしれません。

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この記事を書いた人

伸線加工を行っている会社で品質管理を行っています。
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