熱膨張が伸線に与える影響はある?

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鉄は加熱されると膨張し、冷却されると収縮する特徴があります。

この鉄の膨張・収縮の影響を受けるものと聞くと、橋や電車のレールなどの、大型構造物での話をイメージされる方が多いかと思います。

しかし実は、伸線加工においても熱膨張は影響がでる現象です。伸線加工中は摩擦や塑性変形によって熱が発生しており、その熱が線材や伸線ダイスに影響を与えていると考えられます。

この記事では、熱膨張が伸線加工に与える影響と、その対策・管理方法について解説します。

目次

そもそも熱膨張とは

熱膨張とは、物質が熱を受けることによって体積や長さが増加する現象のことです。

固体の場合、長さ方向の膨張を表す指標として線膨張係数というものが使われます。

鉄(炭素鋼)の線膨張係数はおおよそ11〜12×10⁻⁶/℃となっており、1mの鉄が1℃上昇するごとに約0.011〜0.012mm伸びる計算になります。

「それくらいなら小さな変化では?」と感じる方もいらっしゃるかと思います。しかし、伸線加工では線径の許容差が0.01mm単位やそれ以下で管理されているケースもあるため、わずかな膨張や収縮でも品質に影響する可能性があります。

長物を扱う伸線加工では、長手方向の伸縮は大きくなりそうです。

伸線加工中に熱が発生するメカニズム

伸線加工中に熱が発生する要因は、主に以下の2つです。

① 摩擦熱

線材が伸線ダイスの内部を通過する際、ダイスの内壁と線材が接触し摩擦することで熱が発生します。伸線速度が速いほど、また減面率が大きいほど、この摩擦による発熱量は大きくなります。

② 塑性変形熱

伸線加工は金属を強制的に変形させる塑性加工であり、その変形エネルギーの一部が熱エネルギーとして変換されます。

この熱は線材そのものの内部から発生するため、冷却だけでは完全に抑えることが難しい熱源となっています。

これらの熱が複合的に発生することで、ダイス周辺や線材の温度は加工中に大きく上昇します。連続加工や高速加工を行うほど、発熱量は増加する傾向にあります。

熱膨張が線材(鉄線)に与える影響

加工中に発熱した線材は、熱膨張によって径が若干大きくなります。

このときに問題として考えられるのが、加工中の線径と冷却後の線径の差です。

伸線加工中に線材が熱膨張している状態では、ダイスの穴を通過する際に受ける圧力や変形量が通常とわずかに異なります。加工後に線材が冷却されると膨張分が収縮するため、加工直後と常温時では寸法が変化する可能性があります。

また、この影響は細径品や高精度品ほど顕著となります。線径が細いほど許容される寸法のばらつきが小さくなるため、熱膨張による収縮のわずかな差が、製品の寸法精度に影響を与える恐れがあります。

私が勤めている会社では、そこまでシビアな製品はありませんが…

さらに、長時間の連続加工では線材の温度が安定しない場合もあります。加工開始直後と加工が進んだ後では線材の温度が異なることがあり、それにより同一ロット内でも線径にばらつきが生じる可能性も考えられます。

ただし、検査を行う際には線は完全に冷えた状態で行うことになると思いますので、熱膨張による線径の変化はあまり気にする必要はないのではないかと思います。

熱膨張が伸線ダイスに与える影響

見落とされがちですが、伸線ダイスも金属でできているため、熱膨張の影響を受けます

伸線ダイスのチップ部分には超硬合金が使用されています。超硬合金の線膨張係数はおおよそ5〜6×10⁻⁶/℃であり、鉄(約11〜12×10⁻⁶/℃)と比較すると約半分程度となっています。

ダイスの穴径も温度上昇によってわずかに拡大します。

加工中に穴径が広がった状態で伸線された線材は、冷却後に設計値よりも細くなることが予想されます。ダイスと線材の両方が熱膨張の影響を受けることで、寸法管理がより複雑になると言えます。

実際の対策・管理方法

熱膨張の影響をなくすことは難しいですが、適切な管理を行うことで影響を最小限に抑えることができます。

冷却水による温度管理

伸線加工において、冷却水による冷却は最も基本的かつ重要な対策です。伸線ダイスの外側に冷却水を循環させることでダイスを冷やし、ダイスおよび線材の過度な温度上昇を防ぎます。

冷却水の温度についても注意が必要です。クーリングタワーなどを使用して冷却水自体の温度が上昇しすぎないように維持することが求められます。冷却水の温度が高いままでは冷却能力が低下し、結果的にダイスや線材の冷却ができなくなってしまいます。

伸線速度の管理

伸線速度が速いほど発熱量が増加するため、伸線速度と品質のバランスを取ることが重要です。

特に高精度な寸法が求められる製品の場合には、伸線速度を抑えることで発熱を減らし、熱膨張の影響を小さくすることが対策となります。

潤滑剤の適切な管理

潤滑剤はダイスと線材の摩擦を低減する役割を持っており、摩擦熱の発生を抑制するうえで欠かせない存在です。最適な潤滑剤を選定して使用することで、発熱量そのものを減らすことができます。

寸法測定のタイミング

線材の寸法を測定する際には、加工直後ではなく、線材が十分に冷却されてから測定することが重要です。

加工直後は熱膨張により線径が実際よりも大きく測定される場合があり、冷却後に改めて測定することで正確な寸法を把握することができます。

まとめ

熱膨張が伸線加工に与える影響は少なからずあります。

線材・ダイスともに熱膨張の影響を受けており、それぞれの線膨張係数の違いも加わることで、寸法精度への影響も少なからずあるでしょう。

しかし、冷却水による温度管理・適切な伸線速度の設定・潤滑剤の管理・冷却後の測定といった対策を組み合わせることで、その影響を抑えることが可能です。

伸線加工において高い寸法精度を安定的に維持するためには、熱膨張という視点も持つと品質の向上に繋がりそうです。

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この記事を書いた人

伸線加工を行っている会社で品質管理を行っています。
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