伸線加工の仕事を行っていると、引き細り・引き太りと呼ばれる現象により、伸線ダイスに記載されている穴径とは違う径の線が出てくることがあります。
公差が厳しい製品を作る際には、伸線ダイスの径と異なる線径で出てくると規格に納めることができずに、不良品となってしまい、非常に厄介な現象です。
この記事では伸線加工の「引き細り・引き太り」という現象は何なのか?引き細り・引き太りの発生する原因と対策について紹介します。
「引き細り・引き太り」について
引き細りとは伸線ダイスの呼び径(ベアリング径)よりも細い線ができてしまうことで、引き太りはその逆で伸線ダイスの穴径よりも太い線ができてしまうことです。
ダイス径は1.0mmなのに細い0.9mmが出てくることが「引き細り」、太い1.1mmが出てくることが「引き太り」となります。
明らかに違う線径が出てきた場合には、伸線ダイス自体に問題がある場合が多いですが、そうでない場合にはダイス以外の様々な原因が考えられます。
なぜ発生するのか?
1mmのベアリング径が開いている伸線ダイスを使えば、確実に線は1mmの穴を通ってきているはずなのに、引き細り・引き太りが発生するのは不思議に思いませんか?
私は、最初全く理解できませんでした。
そんな不思議な引く細り・引き太りですが、それぞれの一般的に言われている発生原因を紹介します。
引き細りの原因
- 過度な後方張力
- アプローチ角が大きすぎる
- 減面率が高すぎる
- 過度な後方張力
-
後方張力とは、ダイスに入る線に与えられている後ろ向きの力のことで、これが大きいほどダイスに入る前の線がピンと張ります。
この後方張力が過度に大きいと、引き細りが発生すると言われています。
- アプローチ角が大きすぎる
-
ダイスのアプローチ角が大きすぎる場合、線がダイスに入る際にダイスのアプローチ部に衝突するような形になり、しっかりとダイスの内壁に沿って変形していきません。
線がダイスの壁から離れて変形してしまい、ダイス径であるベアリング部よりも線が細くなる現象が発生します。
- 減面率が高すぎる
-
減面率が高すぎる場合、ダイスから線を引き抜くために必要な力が非常に大きくなります。
そのダイスから引き抜く強力な力で、ダイスによって加工された変形のほかに、線が引き延ばされて細くなってしまう現象が発生します。
引き太りの原因
- 減面率が低すぎる
- 減面率が低すぎる
-
減面率が低すぎる場合、伸線ダイスを通ってもその線径に加工されずに、太く出てきてしまうことがあります。
理由としては鉄線が元に戻れない変形(塑性変形)まで加工されず、元に戻ってしまう変形(弾性変形)の範囲で加工されているからです。
ゴムを潰しても元の形に戻るイメージです。
伸線ダイスに線が通り、ベアリング部でしっかりとベアリング径まで加工はされているのですが、減面率低いがゆえに塑性変形の範囲まで加工されず、ベアリング部を抜けると弾性変形によりベアリング径よりも太い状態で出てきてしまいます。
引き細り・引き太りの対策
引き細り・引く太りが発生する原因はわかっていただいたかと思います。ではそれらは、どのように対策を行ったら良いのかを解説します。
引き細りの対策
- 適度な後方張力に調整する
- アプローチ角度を緩める
- パススケジュールを見直す
- 適度な後方張力に調整する
-
過度に後方張力が掛かっている場合、貯線式伸線機であればフライヤーを緩めて、ストレート式伸線機であればダンサー圧力を弱めることで後方張力を緩めてあげる。
緩めすぎると線が暴れながらダイスに入ることになり、別の問題を引き起こす可能性があるため、適度な張力を探す必要があります。
- アプローチ角度を緩める
-
一般的に伸線ダイスのアプローチ角度は10~16°(半角5~8°)と言われていますが、現在使用しているのダイスのアプローチ角度がこの基準よりも大きい場合には、この基準を目安に緩めてみるといいかもしれません。
鋼種や減面率の違いによって最適な角度は異なるので、最適なものを探す必要があります。
- パススケジュールを見直す
-
鋼種によってことなりますが、一般的に減面率は10~30%と言われていますが、現在のパススケジュールの減面率がこの基準と比べて大きい場合には減面率を下げてパススケジュールを見直すと良いかもしれません。
引き太りの対策
- 適切な減面率を設定する
- 適切な減面率を設定する
-
引き細りの対策で書いた通り、一般的に減面率は10~30%と言われています。この減面率よりも低い場合には減面率を上げて、適切な範囲に入れることで改善できるかもしれません。
減面率を上げてしっかりと線を塑性変形させることで、弾性変形による引き太りを防止します。
引き太り・引き細りまとめ
引き細り・引き太りとは何なのかというところから、発生原因と対策について紹介しました。
ダイスに書かれている線径と違う線径が出てきてしまうというのは、切削加工のように突き出し量などが無く、ダイスの径で寸法精度が決まってしまう伸線加工を行う上では厄介な現象です。
引き細り・引き太りが発生した際には、この記事で紹介した対策が役に立てば幸いです。
コメント