切削加工では切削油をかけながら、圧延加工では直接水を掛けながらなど、冷却を行いながら加工を行っています。伸線加工も同じく、冷却を行いながら加工を行っており、実は冷却には気をつかっています。
今回は伸線加工の冷却方法や、冷却を行わないとどうなってしまうのを紹介します。
伸線加工は冷却を行う
伸線加工では、伸線機内に冷却用の水を循環させていることがほとんどです。
役割としては機械の冷却ではなく、伸線ダイスと伸線している線の冷却が目的であり、大量の水を伸線機内に循環させて伸線加工によって発生した熱を冷却しています。
そのため伸線加工を行っている工場では、工場内に冷却水用の配管がされており、工場の外には冷却で使用した水を冷やすためのクーリングタワーが用意されています。
クーリングタワーが無いと、冷却で使用し温まった水がそのまま再度冷却に使用され、さらに温まっていき、冷却能力が著しく低下していきます。
以前職場でクーリングタワーが壊れたときには、冷却水が50℃近くにもなりました。(普段は20℃以下)
冷却を行わないことによる影響
伸線加工では冷却を行っていることが分かっていただけたかと思います。
ではなぜ工場内・伸線機に冷却水を循環させてまで、常に冷却する必要があるのでしょうか?ここからは冷却を行わないと発生する不具合を紹介します。
青熱脆性の発生
鉄は加工することで発熱するため、伸線加工という押し潰して細く長く加工することでも多くの熱が発生します。
鉄は熱くなると脆くなる「熱脆性(ねつぜいせい)」という現象があり、特に伸線加工で発生するのは200~300℃付近で発生する「青熱脆性(せいねつぜいせい)」という現象です。
この現象は200~300℃付近になると、応力(強度)が増加するが粘り強さ(靭性)が無くなって、脆く(もろく)なってしまうという現象であり、金属の粘り強さを利用して加工している伸線加工では脆くなってしまうと、伸びが足らずに断線の原因となります。
そのため、この温度帯にならないように線をしっかり冷やすことが必要になります。
伸線ダイスの焼き付きの発生
伸線ダイスも冷却水にて冷却を行っていると書きましたが、それが行われないと、ダイスが加工熱と線との摩擦熱によって高温になり、焼き付きを起こしてしまいます。
焼き付きが起きるとダイス内部にキズが発生し、そのダイスで伸線した線にはキズを引きずった跡が付いてしまい、焼き付いた後の製品には全てキズが付いて不具合品となってしまいます。
酷い場合にはダイスのチップが割れてしまって、ダイスそのものが再生できないレベルまで破損してしまうことがあります。
そのため、しっかりと冷却水を使用して伸線ダイスを冷却しながら加工する必要があります。
実際、職場でも焼き付きが発生した際に、よく見たら冷却水を出し忘れていたということがありました。
伸線速度が上げられない
断線の多発と、ダイスの焼き付きなどのトラブルが起きてしまうため、結果的に伸線の線速を上げる事ができなくなってしまいます。
極端なことを言えば線速が1m/minであれば冷却水などは必要ないかもしれませんが、そんな低速では商売になりませんので実際には数百m/minで伸線するわけですが、それは線材と伸線ダイスをしっかりと冷却しているからできています。
もしも冷却が行えない場合には、断線の多発と焼き付きの多発により線速を下げざる負えなくなり、結果としてそれ以上線速を上げる事ができなくなってしまいます。
潤滑剤が耐えられない
潤滑剤には推奨の温度帯があり、もし冷却が行われなくなってしまうと、その温度帯を大幅に超えてしまい潤滑剤が耐えきれなくなってしまいます。
冷却無しで伸線加工を行っているような条件では、潤滑剤が熱に耐えられなくなり、ダイス内部に入る前に溶けてしまいリジェクションとして逆流するように排出されてしまったり、ダイス出口から炭化したような粉状の真っ黒なフレークが発生します。
このような状態のリジェクションやフレークが排出されているのは、潤滑がうまくできていない状態なので、伸線ダイスの寿命の極端な低下や、焼き付きの発生につながってしまいます。
伸線機での冷却の仕組み
冷却を行わないと、様々な問題が発生することがわかっていただけたかと思います。次に伸線機では伸線ダイスと線をどのように冷却しているのかを紹介します。
伸線ダイスの冷却
伸線ダイスの外側に水が満たされる仕組みになっており、直接伸線ダイスと冷却水が接することで、伸線ダイスから冷却水が熱を奪って冷やしています。
冷却水は循環しているので入口から入った水はダイスを冷やし、出口に向けて排出され工場内の配管に戻っていきます。そのため、汚れやゴミが詰まって冷却水の入口or出口が詰まっていると、冷却水の循環が悪くなり冷却不良で問題が発生します。
ダイスと冷却水が直接触れる事で放熱する仕組みなので、ダイスの外側が余りにも汚いと冷却水と接触する面積が減ってしまい、冷却効率が下がってしまいます。
線の冷却
線の冷却は一般的に伸線機のブロックと呼ばれる、伸線された線が巻き取られる部分で冷却されます。
連続伸線機の場合、ブロックは伸線された線が巻き取られ、次の伸線機が巻き取るまでは線が一時的に滞留する部分となり、そこで空気と触れて空冷されます。空冷を促すために伸線機によっては送風機が設置されており、巻き取られ貯まっている線に風を送るものもあります。
また、ブロック内には冷却水が循環して、常にブロックは冷やされる仕組みとなっており、冷やされたブロックに線を巻きつけ冷却を行って間接的に水冷も行う仕組みとなっています。
伸線ダイスから出てきた部分で、直接線に水を掛けてエアワイパーで水切りをするという、直接線を水冷する方法を行う伸線機もあるらしいです。
伸線加工の冷却 まとめ
今回は伸線加工の冷却について紹介しました。
どんな金属加工でも冷却というものは少なからず行っているかと思いますが、伸線加工も例外ではなく、冷却水を伸線機内に循環させて冷却していることがわかっていただけたかと思います。
冷却をしっかり行うことで、ダイス寿命の向上や線速の向上による生産性向上、品質面の安定など様々なメリットが出てくるため、より効率的な冷却方法が求められています。
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