加工硬化とは何か?伸線加工で強度が上がる理由を解説

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伸線加工をしていて、こんな疑問を感じたことはありませんか?

  • なぜパスが進むほど硬くなるのか?
  • なぜ最終パス付近で断線が多いのか?
  • なぜダイス摩耗が想定より早いのか?

これらの現象の背景には、「加工硬化」が関係している可能性が高いです。

加工硬化は、伸線において、強度を与える“武器”にもなりますが、トラブルを生む“原因”にもなる現象です。

この記事では、伸線加工における加工硬化についての影響について紹介していきます。

目次

加工硬化とは?

加工硬化(ひずみ硬化)とは、金属を塑性変形させることで強度(硬さ)が上昇する現象です。

※ここでいう「ひずみ」とは、材料が変形した“量”のことです。

伸線加工は、常温で金属を伸線ダイスによって強制的に塑性変形させる加工です。そのため、伸線は加工硬化を必ず発生させる加工と言えます。

伸線で強度が上がるのは、伸線加工だから強度が上がるわけではなく、金属加工の原理的に硬くなる加工なのです。

ちなみに針金を何度も曲げる(延性加工)と折れるのは、加工硬化によって硬くなった部分の延性が無くなり割れるからです。

なぜ伸線すると強度が上がるのか?

ダイス通過中に起きている内部変化

ダイスを通過する瞬間、材料内部では次の変化が起きています。

  • 大きな塑性ひずみの発生
  • 転位密度の増加
  • 結晶粒の繊維状伸長

特に重要なのが「転位密度(てんいみつど)の増加」です。

転位密度の増加が強度上昇の正体

転位とは、結晶中の“ずれ”のことで、金属が変形できるのは、この転位が移動するためだと言われています。

伸線によってひずみを与え続けると

  • 転位が増える
  • 転位同士が絡み合う
  • 転位の移動が妨げられる

その結果、さらに変形させるには、より大きな力が必要になっていきます。

これが「強度上昇」の正体です。

実際の転位密度で見ると、加工前の焼鈍材では10⁶〜10⁸ /m²程度であったものが、加工後には10¹⁴ /m² 近くまで上昇します。(材料によって数値は変わります)

転位密度は桁違いに増加しており、この差が伸線前後の強度差になります。

加工硬化と伸線の関係

材料試験の応力−ひずみ曲線では、降伏後に右上がりの傾きが現れます。

応力−ひずみ曲線の図

この塑性域におけるグラフの傾きが「加工硬化率」で、塑性変形中に応力がどれだけ増加しているかを表します。

加工硬化の傾向を示す値として「加工硬化指数(n値)」があります。これはひずみの増加に対して応力がどの程度増加するかを示す、材料固有の値です。

一般に n値が大きい材料は一様伸びが大きく、変形が局所化しにくいため、伸線加工を含めた塑性加工に有利とされています。

n値が高い

変形が進むにつれて強度が上昇し、未変形部へ変形が分散されやすいため、均一な変形が起こりやすい。

n値が低い

変形が局所に集中しやすく、くびれなどの不均一変形が発生しやすくなる。

伸線しやすい材料とは、n値が高く加工硬化をうまく分散できる材料とも言えます。

加工硬化が伸線トラブルを引き起こす理由

加工硬化はメリットだけではなく、伸線加工を行うにあたってトラブルの元にもなります。

① 断線リスクの増加

加工が進むと…

  • 延性の低下
  • 局所くびれの発生
  • マイクロクラックの発生
  • 断線の発生

「なぜ最終パスでよく切れるのか?」→ 累積加工硬化が限界に達し、延性が低下して断線が発生している可能性があります。

② ダイス負荷・摩耗の増大

加工硬化が進むと…

  • 変形抵抗の上昇
  • ダイス面圧の増加
  • 摩擦熱の増加
  • 線材硬化によるダイス摩耗の促進

強度が上がるということは、より硬い金属を加工するということになりますので、伸線ダイスにとっては負荷が増えるというになります。

連続伸線では、最終線径に近いダイスの方が寿命が短いです。

③ 表面割れ・縦割れ

加工硬化が進みすぎると、表面側のひずみ集中により微小亀裂が発生する場合があります。

特に次の場合には発生しやすいです。

  • 減面率が高い
  • 潤滑性の不足
  • ダイス角度が不適切

加工硬化のリセット

細い線材を作るには、何枚ものダイスを通す必要がありますが、何もしないで何枚ものダイスを通しても、加工硬化によって硬くなった線は延性が無いため、断線が多発し簡単には伸線できません。

そこで行うのが焼鈍(しょうどん)です。

焼きなましともいわれる熱処理を行うことにより、内部応力の除去・再結晶・転位密度の低下が起こります。

つまり、焼鈍によって加工硬化のリセットを行うことができます。

しかし強度は落ちてしまうので、高強度の線を狙うなら焼鈍なし。延性を戻すならば焼鈍が必要となります。

まとめ

加工硬化とは、塑性ひずみによって転位密度が増加し、強度が上昇する現象です。

伸線加工においては、

  • 強度向上という武器
  • 断線リスクという弱点

にもなります。

塑性加工である伸線加工では避けられない「加工硬化」について紹介しましたが、少しでも皆さんの日々の伸線加工のお役に立てれば幸いです。

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この記事を書いた人

伸線加工を行っている会社で品質管理を行っています。
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