客先に納品する最終製品にはもちろん、自社内の中間工程でも「品質項目」というものが、どこの企業でもあると思います。
伸線加工での品質項目というのは、出来上がってきた製品への品質に対する要求事項であり、客先や次工程で加工を行い、最終的にユーザーに届く状態になったときに、必要な性能を発揮するために必要になります。
例えば釘になる線の場合、強度が弱いと打ったときに曲がってしまいます。
この記事では、伸線加工で求められる品質項目について紹介したいと思います。
伸線加工の品質項目
客先・用途によって求められる品質項目は異なりますが、伸線加工では以下の項目が基準値内であることを求められることが多いです。
- 線径
- 偏径差
- 引張荷重(ひっぱりかじゅう)
- 引張強さ(ひっぱりつよさ)
- 伸び
- 絞り
- 硬度
線径(せんけい)
線の太さのことです。
一般的に何mm~何mmという規格が決められており、測定した製品の線径が決められた範囲内に収まっていれば合格となります。
そもそも客先からの注文が○○mmの線を何kgという注文なので、線径は必須項目と考えてよいでしょう。
偏径差(へんけいさ)
線の歪さ(いびつさ)を表すものです。
丸線を伸線した線の断面は、どうしても完全な丸にはならず楕円になってしまうため、線径を一周分ずらしながら測定すると太い部分と細い部分が出てきます。
その最大線径と最小線径の差を偏径差と呼び、こちらも多くの場合で何mm以内という規格が決められており、その範囲内に収める事が求められます。
JISの規格では測定した部分から90°ずらした部分の2か所を測定して、その線径の差を偏径差とすると規定されています。
引張荷重(ひっぱりかじゅう)
引張荷重はその線が何N(ニュートン)、何kgf(キログラムフォース)まで引っ張る力に耐える事ができるのかを表す値です。
伸線した製品の多くでは一定の長さに切った線を引張試験機にセットし、両端を引っ張っていき、どのくらいの力が掛かったら伸び切れるのかという引張試験と呼ばれる試験を行います。
引張荷重とは、その引張試験を行って線が切れるまでの間に最も強く力(荷重)が掛かったときの数値(最大荷重)のことで、多くの場合はN(ニュートン)を用いますがkgf(キログラムフォース)で表す場合もあります。
引張荷重の場合には単純に引張試験で測定した数値を用いますので、後述する引張強さとは異なり、太ければ太いだけ数値は大きくなります。
引張強さ(ひっぱりつよさ)
引張強さは引張荷重を線の断面積で割った値で、線径に関わらずその素材自体の強さを表す値になります。引張強度や引張応力などとも呼ばれ、単位は「N/㎟」や「MPa」で表されます。
例えば、φ1.0mmで引張荷重が50Nのものと、φ5.0mmで引張荷重が300Nのものがあった場合、線径の太いφ5mmの線の方が引張荷重としては強いですが、引張強さを計算すると以下のようになります。
- φ1mm 引張荷重50N
-
断面積 1mm × 1mm × 3.14 ÷ 4 = 0.785㎟
引張強さ 50N ÷ 0.785㎟ = 63.7N/㎟
- φ5mm 引張荷重300N
-
断面積 5mm × 5mm × 3.14 ÷ 4 = 19.625㎟
引張強さ 300N ÷ 19.625㎟ = 15.3N/㎟
このように同じ断面積としての強度を計算するため、線径が細い方が引張強さが大きくなる場合があります。
伸び率(のびりつ)
伸び率とは引張試験を行った線が、破断後にどの程度伸びたのかを測定し、単位は%で、元の長さからどの程度伸びたかの割合で表します。
一般的に柔らかい線ほど粘り強さがあるので、しっかり伸びてから破断し、硬いものほど強度はありますが伸びずに割れるように破断します。
伸線加工を行った後の線などは加工硬化により、強度(引張強さ)はありますが硬いため、伸びはほとんどありません。
絞り(しぼり)
引張試験を行って破断後にもっとも細い部分の線径を測定し断面積を計算して、試験前の状態から断面積がどの程度小さくなったかの割合(%)です。
絞りが大きいほど、粘り強さがあるため次工程での曲げ加工などの加工性に繋がります。
硬度(こうど)
線の素材自体の硬さです。
伸線を行うごとに加工硬化によって線は硬くなっていきますので、減面率やパススケジュールを見直すことである程度調整することができます。
測定方法
様々な品質項目を紹介しましたが、ここからはそれら項目をどのように測定するのかを紹介します。
線径、偏径差
マイクロメーターやノギスなど一般的な測定器具を使います。精度が必要な場合にはレーザー測定器などを使用して線径を測定し、測定した線径から偏径差を計算します。
伸線加工では引張強さなどの強度は客先から求められなくても、線径というのはほぼ必ず客先から何かしらの指定(JIS規格や独自の規格など)が提示されますので、正しく測定機器が使える事が必要です。
引張荷重・引っ張り強さ・伸び率
引張荷重や引張強さ、伸び率は引張試験機で測定を行います。
ロードセルと呼ばれる荷重を測定するセンサーが取り付けられており、その先のチャックに線を取り付け、もう片方を土台のチャックに噛ませ、試験をスタートするとロードセル側が上に動いて、線が破断するまで引っ張っていきます。
伸びは変位計で直接測定するか、突合せ試験という方法を使用します。ここでは突き合わせ試験を紹介します。
突合せ試験の方法は引張試験前に線に決められた間隔で印を付け、引張試験後に破断面を突き合わせて印の位置がどのくらい移動したかを測定します。
例えば100mmの間隔(標点間100mm)で付けた印が試験後に、110mmまで伸びていた場合は伸び率10%となります。
伸び率が大きいほど、粘り強さ(靭性)がある線だということが言え、次工程で曲げ加工または伸線などを行っても、割れたり断線が発生しにくい加工性の良い線になります。
絞り
引張試験にて、断面積がどの程度まで小さくなって破断したかを表す値です。
引張試験前に線径を測定しておき、試験後に破断した線の最も絞られた部分(最も細い部分)の線径を測定し、測定した試験前後の断面積を計算します。
求めた断面積から以下の計算式を使って、絞り率が何%なのかを計算します。
絞り率(%)=(元の断面積 – 破断後の最小断面積)÷ 元の断面積 × 100
式自体はシンプルなので計算は簡単ですが、破断後の断面積を求めるための、最小部分の線径測定が難しい場合があるので注意です。
硬度
伸線加工だからと言って特別な機器は使用せず、一般的に使用されているビッカース硬度計などの硬度計を用いて測定を行います。ここではビッカース硬さ試験について少し紹介します。
ビッカース硬さ試験機は、先端がピラミッド型のダイヤモンドでできているものを、試験片に一定の力で押し当て凹ませることで試験片にひし形の跡を付けます。
その、ひし形に付いた跡の対角の長さを測定し硬さを測定します。柔らかいものほどダイヤモンドが深く刺さりひし形が大きく、硬いものほどひし形が小さくなります。
桃は柔らかいので指で押したら凹みますが、リンゴは指で押しても凹まないイメージです。
伸線加工の品質項目 まとめ
伸線加工で求められる品質項目について紹介しました。
もちろん全ての項目を求められるわけではないですし、今回紹介した項目以外にも客先によって別途求められる独自の品質項目が存在するため対応が必要です。
品質というのは客先からの信用にもつながりますので、正しく測定した品質の良いものを提供することが大切です。