伸線加工について調べると、引き抜き加工という加工方法も一緒によく出てくると思います。
どちらも棒状の金属の塑性加工ですが、「伸線加工」と「引き抜き加工」と区別されているということは何か違いがあるという事です。
この記事では伸線加工と引抜加工の違いについて、わかりやすく紹介します。
伸線加工と引き抜き加工の違い
どちらも材料を塑性変形させて加工する金属の塑性加工方法ですが、伸線加工と引き抜き加工のもっとも大きな違いは、伸線加工は巻き取ることのできる線材を作り、引き抜き加工は巻き取ることのできない(しない)直線の棒材を加工する加工方法ということです。
また、引き抜き加工の方が伸線加工よりも太いものを作ることが多く、線材というよりも棒材を作ることが多いです。
伸線加工の場合にはできない、パイプ状の中空品も引き抜き加工では作ることができ、丸棒だけでなく断面形状が複雑な形状の物でも加工することができます。
伸線加工と引き抜き加工の比較表
伸線加工 | 引き抜き加工 | |
---|---|---|
製品の長さ | 数千m以上も生産可能 | 数m程度 |
加工機械 | 伸線機 | 抽伸機(ちゅうしんき) ドローイングマシンとも |
出来上がりの状態 | コイル状 | 直線状 |
製品例 | 吊り橋のワイヤー エレベータのワイヤー 電線用の銅線 | 鉄管 自動車のシャフト 電車のレール |
- 長さ
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伸線加工の場合には数百mから数千m以上もの長さも1本の製品として加工可能ですが、引き抜き加工の場合には数m程度までの加工が限界となります。
- 加工機械
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伸線加工の場合には「伸線機」という機械を使用し、引き抜き加工では「抽伸機(ちゅうしんき)」またはドローイングマシンとも呼ばれる機械を使用します。
- 出来上がりの状態
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伸線加工は機械の仕組み上、コイル状またはリールに巻き取った状態の製品となりますが、引き抜き加工の場合には機械が真っ直ぐ引き抜く仕組みなので、出てくる製品は真っ直ぐなものとなります。
- 製品例
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伸線加工の場合には吊り橋のワイヤー・エレベータのワイヤー・電線の銅線など長さが必要な製品を作ることが多いですが、引き抜き加工の場合には鉄管・自動車のシャフト・電車のレールなど中空品や太めの棒材や直線の必要があるようなものを作る場合が多いです。
上記のように伸線加工と引き抜き加工はどちらも金属の塑性加工ではありますが、全く用途が違うことがわかります。
伸線加工と引き抜き加工の使い分け
、違いで紹介した通り、伸線加工と引き抜き加工は金属の塑性加工という点では同じですが、それぞれ特徴があり用途に応じて使い分ける必要があります。
- 長尺品には伸線加工
-
長尺品(長いもの)を必要とする場合には伸線加工となります。長いというのは数m程度ではなく、数百mから数千mを超えるとても長いものとなります。
伸線加工の場合にはコイル状に巻き取りながら加工していくため、とても長いものを作ることが可能です。
引き抜き加工の場合には、真っ直ぐ引き抜くため長くても数m程度のものとなります。
数百mの直線物は作れないし、運べないです。
そのため、長尺品が必要となる場合には伸線加工が必要となります。
- 直線物が欲しい場合には引き抜き加工
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真っ直ぐなものが欲しい場合には、引き抜き加工が必要となります。
伸線加工の場合には、機械の仕組みが巻き取りながら加工するものなので、真っ直ぐな製品は出来上がってきません。
一方、引き抜き加工の場合には、真っ直ぐ引き抜く加工方法のため、直線状の棒材が欲しい場合には引き抜き加工が必要となります。
ただし先述したとおり、引き抜き加工では数m程度のものまでしか加工できません。
- 細いものは伸線、太いものは引き抜き
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細いものは伸線加工、太いものは引き抜き加工を行う・・・傾向があります。
太いものでも伸線加工はできますし、細いものでも引き抜き加工は可能ですが、上記のような傾向があります。
要因としては細いものは線材としての、太いものは棒材としての用途が多いためだと思われます。
線材の場合にはその後にさらに伸線を行うか、めっきなどの表面処理の工程となることが多いですが、棒材の場合には目的の形状にする、さらに精度を出すために切削加工を行ったりすることがあるため、真っ直ぐな材料が必要となります。
伸線加工・引き抜き加工ともに、得意不得意な面がありますので適材適所で使い分ける必要があります。
伸線加工と引き抜き加工の違い まとめ
ここまで伸線加工と引き抜き加工の違いについて紹介しました。
どちらとも切削を行わない、金属の塑性変形を使用した塑性加工方法となっており、両者の最大の違いは最終製品が巻き取られるのか、直線状なのかという点でした。
また、出てくる製品の長さにも大きな違いがあり、伸線加工は数千m以上という長尺も対応可能ですが、引き抜き加工の場合には数m程度までというのも両者を分ける違いです。
どちらが良いということは無く、求められる製品によって両者とも適材適所で使用されています。
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