金属の塑性加工である伸線加工には、伸線用潤滑剤が使用されています。
切削加工では切削油を吹き付けながら加工することで、材料と刃物を保護するのと同様に、伸線加工でも線材と伸線ダイスの間に入りこんで摩擦を減らし、伸線ダイスの寿命向上や材料の表面状態の向上に役立っています。
今回は伸線用潤滑剤に使用されている成分について紹介します。
伸線加工における潤滑剤の役割
まずは伸線加工において、潤滑剤はどのような役割を行っているのかを簡単に紹介します。
- 摩擦力の低減
- 加工熱・摩擦熱の冷却
- 伸線ダイスの保護
- 摩擦力の低減
-
伸線ダイスと材料の間に潤滑剤が入り込むことによって、摩擦の発生を低減し伸線ダイスから線を引き抜く力を低減し、無駄な負荷を無くすことができます。また、摩擦が軽減することにより摩擦熱の発生も抑えられます。
- 加工熱・摩擦熱の冷却
-
主に液体状の湿式潤滑剤での場合ですが、伸線ダイスと材料に潤滑剤を供給することにより、加工熱・摩擦熱で発熱した材料と伸線ダイスを冷却することができます。
- 伸線ダイスの保護
-
潤滑剤によって摩擦力の低減や引き抜き力の低減、冷却効果などを得る事によって伸線ダイスが傷みにくくなり、ダイス寿命が延びます。ダイス寿命が延びることにより、ダイス交換の回数が減り機械停止時間の削減に繋がります。
潤滑剤の種類や役割について、詳しく解説した記事も別途ありますので、そちらも参照ください。
伸線用潤滑剤の主要成分と特徴
伸線用潤滑剤には大きく分けて粉末上の「乾式潤滑剤」と、液体状の「湿式潤滑剤」の2種類があるため、それぞれのどのような成分でできているのかを紹介します。
乾式潤滑剤
粉末上の乾式潤滑剤は大まかに「金属石鹸」「無機物」「添加剤」の3つの組み合わせで作られているとのことです。
- 金属石鹸
-
金属石鹸とは、もともとは動植物性の油脂から作られた脂肪酸と金属が組み合わさったもので、伸線用潤滑剤に限らず、プラスチックの離型剤や安定剤、塗料にも使われている汎用的なものです。石鹸という名前ですが水には溶けません。
伸線潤滑剤としては金属石鹸のなかでも「ステアリン酸カルシウム」「ステアリン酸ナトリウム」「ステアリン酸バリウム」などが良く使用されています。
それぞれ柔らかくなる温度(軟化点)が異なり、耐熱性が求められる潤滑剤を作るのであれば軟化点が高い「ステアリン酸ナトリウム」を使用するなど、使い分けがされています。
- 無機物
-
伸線ダイスと材料の間に入り込み、細かくなりながらダイスと材料の間に入りこんで、金属同士の直接接触を防ぐために入っています。「酸化チタン」「石灰」などが入れられていますが、石灰が使用されることが多いです。
潤滑剤の軟化点の調整にも使用されています。
- 添加剤
-
主に焼き付き防止のために添加し、「硫黄」「二硫化モリブデン」などが使われています。
伸線加工の場合には線表面に硫化鉄の膜を形成でき、焼き付きが起こりにくくなるため「硫黄」が使われることが多いですが、軟化点が比較的低いため高温では使いにくくなってしまう点と、硫黄が水分を含みやすいため錆びやすくなってしまう欠点もあります。
二硫化モリブデンは硫黄よりも高圧・高温に耐えられる添加剤ですが、価格が一気に高くなってしまうというのを、潤滑剤メーカーさんから聞いたことがあります。
どちらも15%以下程度の割合で添加します。
湿式潤滑剤
液体上の湿式潤滑剤は「油脂類」「油性向上剤」「界面活性剤」「添加剤」の、4種類の組み合わせでできているとのことです。
- 油脂類
-
動植物性の融点が低い油脂や、マシン油などに使用される鉱物油が主原料として使用されており、伸線性に影響を与えます。
- 油性向上剤
-
鉱物油系の潤滑剤を作るときに使用するのもので、鉱物油よりもさらにダイスや材料に被膜を作りやすくするために使用します。「脂肪酸エステル」「高級アルコール」などが多く使用されています。
- 界面活性剤(乳化剤)
-
多くの湿式潤滑剤は水で希釈して使用するため、水としっかり混ざる(乳化する)ように界面活性剤を入れています。
主原料が油なので、これを入れないと水と混ざらずに分離してしまいます。
- 添加剤
-
乾式潤滑剤の場合には伸線性の向上を目的に添加しますが、湿式潤滑剤の場合には消泡剤(しょうほうざい)や防腐剤、防錆剤などが添加されることが多く、潤滑液自体の品質維持の目的が大きいです。
もちろん伸線性向上のために添加している成分もあります。
乾式潤滑剤・湿式潤滑剤ともに、上記で紹介した成分はどの潤滑剤にも使われているような、代表的な潤滑剤の成分であり、実際に販売されている伸線用潤滑剤には、各メーカーが研究を重ねて様々な成分が添加されていたり、製造方法によって結晶配列を工夫したりされています。
伸線用潤滑剤の成分 まとめ
今回は伸線用潤滑剤の成分を乾式・湿式に分けて紹介しましたが、正直私は化学の専門家ではないので、成分については詳しくないので内容が浅い部分・間違っている部分があるかもしれませんのでご了承ください。
基本的には乾式潤滑剤は「金属石鹸」、湿式潤滑剤は「油脂類」でできており、そこにさらに機能性を持たせるため様々な成分を添加したものだという理解でよいのではないかと思います。
私自身は仕事で潤滑剤メーカーと協力して、様々な成分の配合比率や添加剤の有無で大きく伸線性が変わることは体験しており、一つの添加剤の有無で、あっという間に伸線ダイスが焼き付いてしまったということも経験しており、潤滑剤の配合というのは難しいものだと思っています。
もし革新的な潤滑剤が開発されたら、ダイス1枚で数百トン伸線できるようになる日も来るのかもしれません。
コメント