伸線ダイスの交換タイミングは?

伸線加工の金型ともなる伸線ダイスですが、伸線ダイスというのは消耗品となり、交換するべきタイミングが来たら交換する必要があります。

この記事では、伸線ダイスの交換するべきタイミング、交換せざる負えなくなるタイミングについて実際に伸線加工に携わってきた中で経験したものを紹介します。

目次

伸線ダイスは消耗品

伸線ダイスは、超硬合金ダイヤモンドなどのとても硬い材料でできていますが、何万mと伸線を行っていると硬い材料で作られた伸線ダイスでも、徐々に摩耗が進み、新品のダイスで伸線した線よりも太い線径の線が出てくるようになります。

製品の品質として要求されている規格値内であれば良いですが、製品の規格値内に収まらない摩耗になってきた場合にはダイス交換が必要となります。そのため、伸線ダイスというのは切削加工などのドリルやエンドミルなどと同じように、消耗品という扱いになります。

この摩耗したダイスは再研磨することで、少し穴径の大きなダイスとして再利用することができるため、精度がそれほど必要とされない太めのダイスや、連続伸線での中間ダイスなどでは、価格も安いため多くの場合で再研磨ダイスを使用することとなります。

伸線ダイスの交換タイミング

伸線ダイスを交換するタイミングは一定量の伸線を行ったら、摩耗度合いに関わらず交換するという方法もありますが、異常が出ない限り交換しないという方法もあります。

ここでは交換タイミングとなる、ダイスで発生する異常についていくつか紹介します。

リング摩耗

最も正しく摩耗した伸線ダイスには、このリング摩耗が見られます。

ダイスの内部構造のベアリング部分の少し手前のアプローチ部に全周にわたって摩耗が発生したものです。ダイスの穴を覗き込むと円形(リング状)に摩耗が見えるためリング摩耗と呼ばれています。

リング摩耗が発生したからといって、すぐに交換となるわけではなく、そのダイスで引き抜いた線径が規格値外とならない限りは交換しなくても基本的には大丈夫です。

ほとんどの場合、この摩耗により線径の規格値に入らなくなってしまって交換を行います。

偏摩耗

何らかの原因によってダイス内部がバランスよく摩耗せずに、偏って一部が極端に摩耗してしまった状態です。

この状態で伸線を行うと偏径差(へんけいさ)が大きい製品が出てきてしまい、規格値をオーバーしてしまう恐れがあります。

偏径差とは線の歪さ(楕円度合い)のことです。

ダイスが偏摩耗する原因としては、ダイスが斜めにセットされている、入線角or出線角が大きくついてしまっていることが考えられます。

伸線ダイスには線を真っ直ぐ入れて、真っ直ぐ引き抜くのが基本ですので、偏摩耗が発生した場合には角度を確認してみてください。

焼き付き

伸線用潤滑剤の入れ忘れや、空になってしまったなどの理由で、伸線ダイスと線の間に潤滑剤が供給されず、強烈な摩擦熱と加工熱によって焼き付きが発生してしまいます。

切削加工でも焼き付きという現象はあり、こちらも切削油の出し忘れなどにより切削部分に油が供給されずに、摩擦熱が異常発生して焼き付きます。

焼き付きは「かじり」などとも呼ばれます。

伸線加工での場合、潤滑剤を入れていても伸線機の冷却水の入れ忘れや詰まりなどで、ダイスや線が冷却されていないと発生する場合もあります。

ダイスマーク

線表面の長手方向へ発生した線状のキズを、ダイスマークと呼びます。

伸線ダイス内のベアリング部に、何らかの原因で発生したキズを引き摺ることで、線表面にも長手方向にキズが発生します。

ダイスへのキズ発生の原因は様々なものが考えられますが、線のキズであったり、溶接した際のバリの処理不足、スケール残りなどが原因として考えられます。

ダイスのキズは自然に治るものでもないので、キズが発生した部分からそれに気付くまでの間、製品にはキズが続きますので、早く気付くことが大切です。

伸線ダイスを交換するときの注意点

伸線ダイスの交換タイミングが来たらダイス交換を行いますが、その際の注意するべきことをいくつか紹介します。

伸線ダイスの水漏れ

伸線ダイスは冷却水と触れて冷却が行われていますが、その水はダイスの穴に入ってはいけません。

冷却水がダイスの穴側に行ってしまうと、潤滑剤と触れて潤滑剤が固まりのようになってしまったり、水が邪魔をしてダイス内部に潤滑剤が供給されなくなってしまいます。

潤滑剤が供給されなくなると、焼き付きの原因となってしまいます。

角度

ダイスの取り付け角度・線の入線と出線角度が付きすぎていると、ダイスの偏摩耗に繋がり、結果的に線に悪影響を及ぼし、規格値に入らず不良品となってしまいます。

伸線ダイスの基本は真っ直ぐ線を入れて、真っ直ぐ抜くことなので、角度には気を付ける必要があります。

溶接部分のバリ処理

ダイス交換を行う際には、一度線を切ってから先付けローラーで細くして線を通し、その後溶接を行うという作業になります。

その際に、先付けローラーや溶接で発生した「バリ」の部分を綺麗に取り除いておかないと、伸線ダイスにキズが入ってしまい、ダイスマークの原因となってしまいます。

製品に溶接部分などを混入させないからと、バリの処理が適当だと、自工程でのダイスにダメージを与えてしまうので注意が必要です。

伸線ダイスの交換タイミング まとめ

今回は伸線ダイスの交換タイミングから、交換する時の注意点まで紹介しました。

冒頭に紹介した通り、伸線ダイスは消耗品になりますが、正しいセットの仕方や条件に合った潤滑剤を選定する事で、寿命を延ばすことができます。

伸線ダイスの交換というのは線抜き→ダイスの脱着→線の溶接という手間があり、伸線機の停止時間もそれなりのものになってしまうため、ダイス交換サイクルが長い方が生産効率もアップし、利益につながります。

ここで紹介した、ダイスの交換タイミングを出来るだけ長く発生しない状況を作れるのかというのが、伸線屋の腕の見せ所でしょう。

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この記事を書いた人

伸線加工を行っている会社で品質管理を行っています。
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