線材を製造する伸線加工特有の品質として「線クセ」というものがあります。
この線クセは、よくある品質項目の線径や引張強さなどの検査では測定できないため、基本的には生産現場で確認する項目となりますが、次工程・客先で使用する際に影響する大事な項目となります。
この記事では、そんな「線クセ」について解説します。
線クセとは?
伸線加工の場合には引き抜き加工とは違い直線状ではなく、輪っか状に線を生産して容器に入れていく又は巻いていくため、輪の大きさと螺旋の方向(ひねり方向)の2つを調整する必要があり、その2つを合わせて線クセと呼んでいます。
輪の大きさが極端に小さかったり、螺旋の方向が線を供給する方向に対して逆向きだったりすると、次の工程で線を使う際に、うまく線がほぐれずにもつれてしまいます。
自工程内で現在の線クセが良いのか悪いのかは、ある程度判断は付きますが、実際には次工程で使ってみて、トラブルなく線が供給できるかどうかの判断が必要です。
線クセの発生原因
異常な線クセが発生する大きな要因を3つ紹介します。
- 伸線ダイス要因
- 矯正ローラー要因
- 供給方法要因
伸線ダイス要因
伸線ダイスが線に対して平行ではなく、角度が付いてセットされていると、線にパーマが掛かったような変なクセが付きます。
伸線ダイスには線を真っ直ぐ入れて、真っ直ぐ出すのが基本ですが、伸線ダイスをセットする際などにズレて角度が付いて、真っ直ぐ線を出すことができないと線に均一の応力が掛からずに線が曲がってしまいます。
極端に斜めに入れてしまうと、ダイスの片面に線が強く押し付けられる状態になるため、線の断面が歪になってしまったり、そのまま伸線を続けるとダイスが偏摩耗を起こします。
矯正ローラー要因
本来、矯正ローラー(ローラーレベラーとも)は複数のローラーを線に押し当てることで、線のクセを良い方向に矯正するためのものですが、この調整が正しくできていないと変なクセが付いてしまいます。
調整以外にもローラーのベアリングが壊れて回っていなかったり、ローラーに彫られている線が外れないようにする溝が、摩耗によって深くなっていると線へのローラーの当たり方が変わってしまい、意図していないクセに矯正されてしまいます。
供給方法要因
線の供給方法が上から取っていくような供給方法の場合には、構造上どうしても線がねじれながら線が供給されることになります。
この供給部分でのねじれにより、最終的な製品にもねじれの応力が残ってしまい、意図していない線クセになる場合があります。
線クセの矯正方法
伸線ダイスの調整
要因の部分でも紹介しましたが、伸線ダイスへの入線角度と出線角度により線のクセは大きく変わります。
そのため、なるべく真っ直ぐに線を入れて真っ直ぐに線を引き抜くことができるように、ダイスのセット角度及び線の角度を調整することが必要となります。
ダイスのセット角度が原因でついた線クセは、線自体の残留応力によって発生しているため、矯正ローラーを使っても矯正できないことがあるくらい強力です。
またダイスのセット角度が付きすぎていると、線の断面が歪になったり、ダイスの偏摩耗にもつながるため、伸線ダイスと線は平行になるようにセッティングすることが大切です。
矯正ローラーで矯正
名前からわかる通り、線のクセを矯正するためのローラーなので基本的に線のクセを調整する場合には、この矯正ローラーを使用することがほとんどです。
仕組みとしてはローラーが複数ついており、それぞれのローラーの押し当て量を調整することにより、線を変形させてクセを矯正します。
多くの場合で縦方向と横方向に矯正を行うため、90°ズレた矯正ローラーを使用して、輪の大きさとねじりの方向を調整します。
ローラーの押し当て量は、マイクロメーターのように目盛りが付いていて、どのくらいローラーを線に押し込んだか数値で管理できるものも存在しますが、ほとんどの矯正ローラーはメモリなどは無いので、作業者の経験に頼る部分が多いです。
供給方法の変更
設備の大幅変更が必要となるためあまり現実的ではありませんが、線の供給方法を線の巻かれている方向に対して垂直に上から取る方式ではなく、巻かれている方向に対して平行に供給することにより捻じれ方向のクセは抑えられます。
どうしても捻じれ方向のクセは抑えなければならないという場合には、設備の改造・変更が必要となりますが供給方法の変更も検討してみると良いでしょう。
線クセまとめ
伸線加工特有の品質である線クセについて解説しました。
この線クセというのは、客先などに提出する検査成績書などには記載されることはあまりない項目ではありますが、客先で実際に線を使用する際には、トラブル無くほぐれることも非常に重要です。
線の品質というと線径や引張強さなどの項目だけに目が行ってしまいがちですが、次工程・客先で使用することを考えると、線のクセにも気を付けて生産する必要があります。
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