伸線加工の素材となるロッド材には、様々な鋼種が存在することを紹介しましたが、実際にロッド材を発注する際には「SWRM」や「SWRH」といった記号を目にすることが多いと思います。
これらはJIS(日本産業規格)で定められた鋼材の規格記号であり、伸線加工を行ううえで素材選定の基礎知識となる大切なものです。
この記事では、伸線用鋼材の代表的なJIS規格である「SWRM(軟鋼線材)」と「SWRH(硬鋼線材)」の違いや、使い分けについて紹介します。
JIS規格とは?なぜ必要なのか
JIS(Japanese Industrial Standards)とは、日本国内における工業製品の品質や性能を統一するために定められた規格のことです。
鋼材の分野でもJIS規格が細かく制定されており、成分や機械的性質などが規格として決められています。
伸線加工で使用されるロッド材においても、含まれる炭素量や成分の範囲によって記号が分けられており、この記号を見ることで、どのような特性を持った鋼材なのかをある程度把握することができます。
発注書に記号だけ書かれていても、意味がわかると安心です。
伸線加工では、ロッド材の炭素量によって加工硬化の進み方や適切な減面率が変わってくるため、JIS規格を正しく理解しておくことは、加工条件を検討するうえでの土台になります。
軟鋼線材(SWRM)とは
SWRMとは、JIS G 3505に定められている「軟鋼線材」のことです。「Steel Wire Rod Mild」の頭文字を取った記号だと言われています。
SWRMの特徴
SWRMは炭素量が最大で0.25%までの比較的含有が少ない、低炭素鋼にあたるロッド材です。SWRM6・SWRM8・SWRM10・SWRM12・SWRM15・SWRM17・SWRM20・SWRM22の8種類があります。
数字の部分は、おおよそ鋼種に含まれる炭素量の最大値の-0.02くらいになっています。
SWRM10であれば、炭素量はおおよそ0.08〜0.13%程度、SWRM15は0.13〜0.18%程度とされています。
炭素量が少ないため、素材自体は柔らかく延性に優れており、伸線加工での加工性が良いという特徴があります。塑性変形を大きく行っても比較的断線しにくく、複数回の伸線パスを重ねやすい素材だと言えます。
SWRMの主な用途
SWRMは強度よりも加工のしやすさが求められる製品に多く使用されています。
- 釘・ネジなどの締結部品
- 針金・番線
- 溶接金網
- ハンガーなどの成形品
成形加工や曲げ加工が多い製品には、延性に優れたSWRMが向いています。
硬鋼線材(SWRH)とは
SWRHとは、JIS G 3506に定められている「硬鋼線材」のことです。「Steel Wire Rod Hard」の頭文字が由来だと言われています。
SWRHの特徴
SWRHはSWRMよりも炭素量が多い、高炭素鋼にあたるロッド材です。SWRH27・SWRH32・SWRH37・SWRH42・SWRH47・SWRH52・SWRH57・SWRH62・SWRH67・SWRH72・SWRH77・SWRH82など、種類が豊富にラインナップされています。
SWRH42であれば、炭素量はおおよそ0.39〜0.46%程度です。
炭素量が多いため、SWRMと比較して硬く、強度が高いという特徴がありますが、その分だけ延性は低いので、伸線加工では扱いにくい素材といえるでしょう。
炭素量が高いほど、パス数の設定やパススケジュールを慎重に検討する必要があります。
SWRHの主な用途
SWRHは強度が求められる製品に多く使用されています。
- ばね用鋼線
- PC鋼線(コンクリート補強用)
- 吊り橋・ロープウェイ用ワイヤー
- ビード線(タイヤの補強用)
特にSWRHは、伸線加工による加工硬化を積極的に活用し、高い強度を実現する製品に使われることも多い鋼材です。
炭素量による使い分け
SWRMとSWRHは炭素量によって明確に分かれていますが、その差によって伸線性・強度・用途がどのように変わってくるのかを簡単な表にまとめました。
| SWRM(軟鋼線材) | SWRH(硬鋼線材) | |
|---|---|---|
| 炭素量の目安 | 約0.08〜0.25% | 約0.24〜0.86% |
| 硬さ | 柔らかい | 硬い |
| 延性 | 高い | 低め |
| 加工硬化の進み方 | 緩やか | 早い |
| 主な用途 | 釘・番線・金網など | ばね・PC鋼線・ワイヤーなど |
炭素量が増えるほど強度は上がりますが、その分だけ基本的に延性は落ちていくため、製品に求められる強度と、伸線加工での加工性(断線のしにくさ)はトレードオフの関係にあると言えます。
強ければ良いというわけではなく、用途に合った炭素量を選ぶことが大切です。(炭素量がすべてではありませんが)
鋼種選定のポイント
伸線加工の現場で鋼種を選定する際には、以下のような視点で検討すると良いかと思います。
SWRMとSWRHでは全く性質が異なるので、あまり迷うことはないとは思います。
最終製品に求められる強度から選ぶ
最終製品に必要な引張強さが高い場合には、SWRHの中でも炭素量の高いものを選ぶことになりますが、その分だけ伸線加工でのパス数や減面率の設計をより丁寧に行う必要が出てきます。
後工程の加工方法から選ぶ
伸線後に曲げ加工や成形加工が控えている製品の場合には、延性の高いSWRMの方が扱いやすい傾向があります。逆に、伸線加工そのものによる強度アップを狙う製品であれば、SWRHが選ばれることが多いです。
伸線条件(減面率・パス数)とのバランスで選ぶ
同じ最終線径を狙う場合でも、炭素量が高い鋼種ほど1パスあたりの負荷を抑えたパススケジュールが必要になることが多く、結果としてダイス枚数や工程数が変わってくることがあります。
伸線用鋼材のJIS規格 まとめ
今回は伸線加工で使われる代表的な鋼材規格である「SWRM(軟鋼線材)」と「SWRH(硬鋼線材)」について、その違いと炭素量による使い分けを紹介しました。
SWRMは炭素量が少なく延性に優れているため加工しやすい鋼材、SWRHは炭素量が多く強度を活かした製品に向いている鋼材という、大きな違いがあることがわかっていただけたかと思います。
どちらの鋼種を選ぶかによって、伸線加工での減面率やパススケジュールの考え方も変わってくるため、鋼種は伸線加工の条件設計に関わる部分です。
この記事が、鋼材選定を行う際に少しでもお役に立てれば幸いです。


