伸線加工に携わっていると、伸線ダイスを注文する時があると思いますが、ダイス屋さんには穴径の他にダイス角度を指定する時があります。
ダイスの穴径の場合には、ダイスを通って出てくる線の直径に関係するというのはイメージしやすいですが、ダイス角度については、それが伸線加工でどのような影響を及ぼすのかイメージしにくいと思います。
この記事では、伸線用ダイスのダイス角度が伸線加工にどのような影響を及ぼすのかを解説します。
伸線ダイスの角度とは?
伸線ダイスを縦に切って断面を見ると、場所によって様々な部分の角度がありますが、一般的にダイスの角度と言った場合にはアプローチ部の角度のことを指します。
ダイスの内部構造についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、良かったら参考にしてみてください。
その角度のことを伸線業界では、アプローチ角度やダイス角度と呼んでいます。
ダイス内壁から反対側の内壁までの角度ではなく、ダイスの中心線からアプローチ部内壁までの半角で呼ばれることが多いですが、たまに全角?(ダイスの内壁から内壁までの角度)を表記している場合があるので注意が必要です。
後述しますが、このダイス角度は使っている材料や減面率などの伸線条件によって最適なダイス角度が異なるため、ダイス屋さんに注文する際にはダイス角度はどのくらいにするのか、またはどのような材料を伸線するのかを聞いてきます。
角度によって何が変わる?
ダイスの角度によって変化する、代表的なものは以下の2つです。
- 引き抜き力の変化
- 内部クラックの発生
- 引き抜き力の変化
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ダイス角度によって最も大きく変化するのが、この引き抜き力になります。
引き抜き力とは名前からもイメージできる通り、伸線ダイスから線を引き抜くために必要な力となります。
角度が急でキツければ、急激に線を押し潰す(変形させる)必要があるため、それを引き抜くには大きな力が必要となります。
角度が緩ければ引き抜き力は下がるのですが、緩くしすぎると伸線ダイスと線表面の接触する面積が増えて、変形させる力は減りますが摩擦力が増えてしまい結果的に引き抜き力が多く必要となってしまいます。
引き抜き力が過度に大きいと伸線中に断線が発生したり、伸線機への負荷が大きくなり、電力量の増加や交換部品の消耗が早くなったり、機械故障頻度の増加の原因となります。
- 内部クラックの発生
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ダイス角が原因で、線内部にクラックが発生する恐れがあります。
減面率も関係してきますがダイス角がキツすぎる場合、線の表面と内部で変形に大きな差ができてしまい、線表面よりも線内部が引き抜かれることで、内部にたけのこのようにクラック(シェブロンクラック)が発生してしまう場合があります。
線内部のクラックは曲げたりすれば、折れてしまうかカッピー断線が発生して発見できますが、通常工程での外観検査では判別できないため探傷機のような、線内部を検査できる機器を使わない限りは次工程や客先に流出してしまいます。
品質に直結する部分なので、この内部クラックには気を付ける必要があります。
適切なダイス角度を選ぶことで、断線などの生産中のトラブルの低下から、機械負荷の低減により電力や故障による部品代の削減につながります。
また、内部クラックの発生という製品自体の品質にも関わる部分にもつながってくるので、とりあえず伸線できたからOKではなく、適切なダイス角を選定して安定生産を行うことが大切です。
最適なダイス角はいくつなのか?
最適なダイス角度とは、製品の品質に異常がなく、引き抜き力が最も低い角度となります。
伸線加工で必要な引き抜き力は、線径を細くするために変形させる力、ダイスとの摩擦力、せん断変形させる力の合計となり、ダイス角度を変化させることでこの力は変化します。
最も引き抜き力が低くなるダイス角度が最適な角度となり、一般的にはダイス半角5〜9度が良いと言われていますが、あまりにも硬く脆いような材料を伸線する場合には、ダイス角度を極端に緩くする場合もあるので、5〜9度というのは目安として、最適なダイス角度を探す必要があります。
鋼種や減面率、潤滑剤の種類などの生産条件によって最適なダイス角度は異なるため、一概に何度が最適とは言えませんが、傾向とすると硬い材料はダイス角を緩めに設定し、柔らかい材料の場合にはきつめに設定します。
気を付けなければならないのが、伸線ダイスは摩耗をするということです。
新品の状態であれば最適な角度だったとしても使っているうちに摩耗し、ダイス角度は変化してくるので、どのくらいで交換を行うのか交換の頻度を見極めて設定する必要があります。
伸線ダイスの最適角度まとめ
伸線ダイスのダイス角度について紹介しました。
一般的に最適な角度は5~9°と言われていますが、本来であれば引き抜き力などを測定しながら調整し、最適な角度のダイスを選定するべきではあります。
しかしながら本当に最適なダイス角度を見つけようとすると、調査の段階からかなりの時間とお金が掛かりますので、一般的なダイス角度(ダイスのラインナップ)の範囲内で、あなたの工程にもっとも相性のよいダイス角度を見つけた方が良いでしょう。
ダイス角度について心配であれば、購入しているダイス屋さんに聞いてみると、何かヒントが得られるかもしれませんので、聞いてみることもおススメします。
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