伸線加工をしていると、突然、線の表面に長手方向の筋状のキズが入り始める、ということがあります。
そのキズは「ダイスマーク」と呼ばれるものかもしれません。
ダイスマークは見た目の問題だけにとどまらず、製品の寸法や次工程の品質にも影響を及ぼすことがある製品表面の欠陥です。
この記事では、ダイスマークとはどのような傷なのか、発生原因・品質への影響・防止対策について紹介します。
ダイスマークとは?
ダイスマークとは、伸線加工後の線材表面に発生する引き抜き方向に平行な筋状のキズのことです。
伸線ダイスのベアリング部(線径を決める部分)に何らかのキズや損傷が生じると、線材がダイスを通過するたびにそのキズが転写され、製品の表面に連続した筋として現れます。
ダイスのキズは自然に回復することがないため、気づかないまま伸線を続けると、長い範囲にわたって傷が発生してしまいます。不規則に入る引っかき傷などとは異なり、ダイスマークは引き抜き方向に一定の筋として連続して現れるのが特徴です。
早めに気づいて対処することが、品質への影響を最小限に抑えるうえで大切です。
ダイスマークの発生原因
ダイスマークの直接の原因は「ダイスのベアリング部へのキズや損傷」ですが、そのキズがなぜ発生するのかは、いくつかの原因が考えられます。
① 溶接バリの処理不足
ダイス交換の際には、先付けローラーで線を細くしてからダイスに通し、バット溶接でつなぐという作業が必要になります。
このとき、先付けローラーや溶接によって発生したバリをきちんと取り除いておかないと、そのバリがダイスのベアリング部を傷つけてしまい、ダイスマークの原因となってしまいます。
溶接部分は高温で加熱されるため、通常の線材よりも硬くなっている場合があります。バリの処理が甘いままダイスに通してしまうと、ダイスへのダメージが大きくなりやすいので注意が必要です。

② スケール(酸化皮膜)や異物の混入
線材の表面に残ったスケールや錆、また潤滑剤に混入した異物(切粉や砂など)が、ダイス内部で研磨材のように作用してダイス内面にキズをつけることがあります。
スケールは線材本体よりも硬い場合があるため、前処理(スケール落とし)が不十分な状態で伸線を行うと、ダイスマークが発生しやすくなります。
また、潤滑剤が長期間使用によって汚れた状態になっていると、そこに含まれる異物が同様の原因になることがあるため、潤滑剤の管理も合わせて確認するとよいかと思います。
③ 潤滑不足による焼き付き
潤滑剤の量が不足していたり、加工条件に合わない潤滑剤を使用していたりすると、ダイスと線材の間の油膜が切れて金属同士が直接触れ合う状態になります。
これが焼き付き(かじり)であり、ダイス表面に損傷を与えてダイスマークの原因となります。潤滑剤は減ってきたら補充する、加工速度や素材に合ったものを選ぶ、という基本的な管理が焼き付き防止につながります。

④ 冷却不足による焼き付き
③の潤滑不足と同様に、冷却が不十分な状態での伸線も焼き付きにつながります。
冷却水の流量が足りていなかったり、配管の詰まりによってダイスへ冷却水が届いていなかったりすると、加工熱が過度に高まりダイス表面が傷みやすくなります。
冷却系統は外から見えにくい部分でもあるため、定期的な点検を習慣にしておくことが大切かと思います。

⑤ ダイスの摩耗・損傷の蓄積
長期間使用したダイスは、摩耗が進んでベアリング部の表面が荒れてきます。通常のリング摩耗は正常な摩耗の範囲ですが、摩耗が使用限界を超えたり偏摩耗が生じたりすると、線材にキズが転写されるようになります。
ダイスを使いすぎることでコスト削減につながるように思えますが、ダイスマークが発生してからでは不良品が増えてしまい、結果的にコストがかかってしまう場合もあります。交換タイミングの目安を決めておくと管理しやすくなるかと思います。

ダイスマークが品質に与える影響
ダイスマークが発生すると、製品にはどのような影響があるのでしょうか。
外観・寸法精度への影響
最もわかりやすいのが外観不良です。ダイスマークは線の長手方向に連続して現れるため、目視検査でも比較的確認しやすいキズです。
また深いダイスマークが入った場合には、偏径差が大きくなり線径の規格値から外れてしまうことがあります。
深いものは指で触ってスジがわかります。
用途による影響の違い
ダイスマークが品質に与える影響の大きさは、製品の用途によって異なります。
バネや構造用ワイヤーなど、繰り返し荷重がかかる用途では特に注意が必要で、線材表面のキズは応力の集中源となることがあり、強度の低下につながるリスクがあります。
めっき・塗装などの後工程がある製品では、ダイスマークが表面粗さを悪化させ、後処理の密着不良につながる場合があります。また、そのような用途では外観を重視されるので、その面でも影響が大きいです。
また、深いダイスマークが入った線を続けて伸線すると、そのキズを起点として断線が発生することもあるため、自工程内での影響にも注意が必要です。
ダイスマークの防止対策
ここまで紹介した発生原因をもとに、それぞれの対策をまとめてみました。
| 原因 | 対策 |
|---|---|
| 溶接バリの処理不足 | ダイス交換時のバリ取りを丁寧に行い、ダイスに通す前に確認する |
| スケール・異物の混入 | 前処理(スケール落とし)を適切に行う。 |
| 潤滑不足による焼き付き | 加工条件に合った潤滑剤を選定し、量の管理を行う |
| 冷却不足による焼き付き | 冷却水の流量・詰まりを定期的に点検する |
| ダイスの摩耗・損傷 | 定期的なダイスの状態確認と、使用限界を超えたら早めに交換する |
ダイスのキズは自然治癒することは無いので一度発生すると、気づくまでの間ずっと製品へのキズが出続けることになります。
日常の管理で予防することが基本かと思います。伸線中の定期的な外観確認の習慣をつけておくと、早期発見にもつながります。
ダイスマーク まとめ
この記事では、伸線加工で発生するダイスマークについて、傷の特徴・発生原因・品質への影響・防止対策を紹介しました。
ダイスマークの直接の原因はダイスのベアリング部への損傷ですが、その背景には溶接バリの処理不足・スケールや異物の混入・潤滑や冷却の不足・ダイスの摩耗といった、日常の管理で防ぎやすい要因が多くあります。
ダイスマークが発生した際には、この記事で紹介した原因を参考に、原因をたどって対策につなげていただければ幸いです。


