伸線機の中でも「コーン式」と呼ばれるスリップ式伸線機を扱っていると、必ず突き当たるのが「キャプスタン比」の計算です。
コーン式伸線機は名前の通り、とうもろこし(コーン)のように直径の異なるキャプスタンが同軸上に並んでいる伸線機ですが、この直径をどのように決めているのか、疑問に思ったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、コーン式伸線機のキャプスタン比の考え方と計算方法について、できるだけわかりやすく紹介します。
コーン式伸線機のおさらい
コーン式伸線機は、スリップ式伸線機の一種で、1つのモーターで全てのキャプスタンを同じ回転数で回すという特徴があります。
ノンスリップ式のように、ブロックごとに個別のモーターを持ち速度を細かく制御するタイプとは違い、コーン式ではキャプスタンの直径そのものを変えることによって、線が細くなるにつれて必要になる速度アップに対応しています。

なぜキャプスタン径を変える必要があるのか
伸線加工では伸線ダイスを通るたびに線径が細くなっていきますが、体積(長さ×断面積)は変わらないため、線は細くなった分だけ長くなります。
線が長くなるということは、単位時間あたりに送り出される長さ、つまり線速が速くなるということです。
ホースの先を指でつまむと水が勢いよく飛び出すのと、少しイメージが近いかもしれません。
コーン式の場合、全てのキャプスタンは同じ回転数で回っているため、後段(細い線径側)のキャプスタンほど直径を大きくすることで、周速(線が巻き取られる速度)を速くしているのです。
この「前段のキャプスタン径に対して、後段のキャプスタン径をどのくらい大きくするか」という比率のことを、キャプスタン比と呼びます。
キャプスタン比の計算式
キャプスタン比は、減面率から求めることができます。
体積保存の考え方から、加工前後の断面積の比と、線の長さ(速度)の比は逆の関係になります。減面率を r としたとき、加工後の断面積は加工前の (1-r) 倍になっているので、線速は下記の通り変化します。
速度比(後段÷前段)= 1 ÷(1-減面率)
そしてコーン式は全キャプスタンが同回転数のため、周速の比=直径の比となり、そのままキャプスタン比として使うことができます。
キャプスタン比(後段径÷前段径)= 1 ÷(1-減面率)
減面率が高いほど、ダイス一枚当たりの線速の伸びが大きくなるため、キャプスタン比も大きく(=径の差が大きく)なるという関係です。
実際に計算してみる
言葉だけではイメージしづらいと思いますので、具体的な数字を当てはめて計算してみます。
条件:各パスの減面率を20%で均等に設定した場合
①キャプスタン比を求める
減面率20%は0.20として計算します。
キャプスタン比 = 1 ÷(1-0.20)= 1 ÷ 0.80 = 1.25
この場合、後段のキャプスタン径は前段の1.25倍に設定するのが理論値になります。
②実際のキャプスタン径に当てはめる
例えば1段目のキャプスタン径が200mmだった場合、2段目以降は以下のようになります。
| 段数 | キャプスタン径 |
|---|---|
| 1段目 | 200.0mm |
| 2段目 | 200.0mm×1.25倍=250.0mm |
| 3段目 | 250.0mm×1.25倍=312.5mm |
| 4段目 | 312.5mm×1.25倍=390.6mm |
段数が進むごとに、前段のキャプスタン径へ1.25を掛け合わせていくことで、コーン状に直径が大きくなっていく形状が計算できます。
パススケジュールが均等でない場合
ここまでは全パス同じ減面率の「均等パススケジュール」を前提に計算しましたが、実際には最終線径に近づくにつれて減面率を落とす「テーパードパススケジュール」が採用される場合もあります。
コーン式伸線機は構造上、あらかじめキャプスタン径が固定されてしまうため、テーパードパススケジュールのようにパスごとに減面率が変わる設計には対応しにくいという制約があります。
そのため、コーン式では均等パススケジュールで設計されることが多いようです。
実際の設計で気をつけたいポイント
理論値のキャプスタン比をそのまま使うと、現場ではうまく伸線できない場合があります。以下の点も合わせて考慮する必要があるかもしれません。
スリップ代を見込む
コーン式はスリップ式伸線機に分類される通り、線とキャプスタンの間に意図的なスリップ(速度差)を発生させながら伸線を行う方式です。
理論値ぴったりのキャプスタン径にしてしまうと、線の太りや摩耗などの変動に対応できない場合があります。そのため実際には、計算したキャプスタン比よりも少し大きめに設定し、キャプスタンの方が少し速く回るように調整するのが一般的なようです。
線の太り・ダイス摩耗の影響
伸線ダイスは使用するにつれて摩耗し、線径が徐々に太くなっていきます。線が太くなれば断面積も大きくなるため、本来必要な線速との間にズレが生じてきます。
このズレをある程度吸収できるように余裕を持たせてキャプスタン比を設計しておくことも、安定した生産のためには大切になってくると思います。
材質による摩擦特性の違い
スリップ量は線とキャプスタン間の摩擦にも左右されるため、伸線する材質や潤滑剤の状態によっても、最適なキャプスタン比は微妙に変わってくる可能性があります。
そのため、計算式で出した数値はあくまで目安として捉え、実際に試し引きを行いながら微調整していくことが望ましいでしょう。
コーン式伸線機のキャプスタン比 まとめ
コーン式伸線機におけるキャプスタン比の計算方法について紹介しました。
ポイントをまとめると以下の通りです。
- コーン式は全キャプスタンが同回転数のため、径の違いで線速を変えている
- キャプスタン比=1÷(1-減面率)で計算できる
- 理論値だけでなく、スリップ代や線の太りを見込んだ余裕が必要
キャプスタン比の考え方は、コーン式伸線機の設計だけでなく、伸線加工全体のパススケジュールを理解するうえでも役立つ知識だと思います。
コーン式伸線機の設計や見直しを行う際に、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。






