「伸線加工 AI」で調べても、あまり情報が出てきません。まだまだ伸線業界ではAI活用が浸透していないのだと思います。
しかし、その他の金属加工業界では、外観検査や設備保全などにAIを取り入れる動きが進んでいます。
この記事では、他の金属加工業界でのAI活用事例を紹介し、それをもとに伸線加工ではどのような使い方ができそうかを考えてみたいと思います。
製造業でAI活用が進む背景
多くの製造業では、熟練技術者の高齢化と技術継承が大きな課題となっています。
機械・金属加工業界でも例外ではなく、ベテランが培ってきた暗黙知をAIを使ってデジタル化し、次の世代へ効率的に技術継承していく取り組みが進められています。
それ以外にも、これまで人の経験や感覚に頼っていた品質検査や設備保全などで、AI導入を進めている流れがあります。
他の金属加工業界でのAI活用事例
伸線加工以外での業界では、どのようにAIを活用しているのか見てみましょう。
外観検査へのAI活用
ある金属部品メーカーでは、不良品のデータを集めることが難しいという理由から、良品のデータのみを学習させて異常を検知する方式を採用し、人がルーペを使ってもわからないようなバリを99%を超える精度で検品できるようになったとのことです。
不良品というのは大量に出ませんから、良品を大量に覚えさせたのですね。
AIは検査を重ねるほど機械学習によって、精度を向上していくことができるため、目視検査で起きがちな検査員ごとのばらつきの解消にもつながります。
設備の異常予兆検知(予知保全)
製鉄を行っている「JFEスチール」では、電流・圧力・流量・温度・振動といった大量のセンサーデータを解析し、正常時の基準値からどのくらい外れているかを「異常度」として指標化するシステムを導入してたそうです。
ある工場では年間50時間以上のトラブル抑止効果が確認されたとのことです。
また金属を切削加工する業界では、工作機械の加工面に波状の跡が残る「ビビり」という現象があります。
工具の摩耗など不確実な要素が絡むため、数式だけでは最適な切削条件を求めることが難しいとされているそうですが、そこにAIを活用する試みも進められています。(ヤマザキマザック)
製造プロセス全体の予測・最適化
同じくJFEスチールでは高炉のデジタルツイン化を進め、AIによって最大12時間先の炉内状況を予測し、異常の早期検知やオペレーターへのガイドに活用しています。
これまで熟練オペレーターの経験に頼っていた判断を、AIが支援する形です。
デジタルツインとは簡単に言うと、実際の環境をデジタル世界で作って(双子)再現することです。

生成AIによるナレッジ活用
過去の技術資料や作業報告書を生成AIでナレッジ化(知識をまとめて共有できる状態にすること)し、自然言語検索によって若手社員が、過去に発見した様々な知見を活用できる環境整備も進んでいます。
質問すると過去の資料を元に回答してくれるのは良いですね。
これらの事例を見ると、AIは単純な自動化だけでなく、判断や経験の部分にまで入り込んできているように感じます。
伸線加工業界でAIを活用するとしたら?
ここまで紹介した他業界の事例を、伸線加工の現場ではどのように活用できそうか考えてみます。
ダイスマーク・線表面キズの自動検知
外観検査AIの事例のように、伸線ダイス出口などで線表面を常時カメラで監視できれば、ダイスマークのような発生初期には見逃されやすいキズも、早い段階で検知できるかもしれません。
ダイスのキズは自然には回復しないため、早期発見が大切なので実現すれば損害を大きく減らせそうです。
断線・ダイス摩耗の予兆検知
設備の異常予兆検知の考え方を応用すれば、引き抜き力の変化や伸線機の電流値、振動などのデータをAIに学習させることで、断線やダイス摩耗の兆候を事前に検知できる可能性があります。
「そろそろダイスが摩耗してきていそうだ」という感覚的な判断を、AIを活用してデータに基づいて行えるようになれば、計画的なダイス交換にもつながりそうです。

パススケジュール・潤滑剤選定の最適化支援
減面率、ダイス角度、潤滑剤の組み合わせは複雑に絡み合っており、最適な条件を見つけるには経験と勘に頼る部分が大きいのが現状です。
高炉のデジタルツイン化のように、過去の加工データをAIに学習させることで、パススケジュールや潤滑剤の選定を支援してもらえる日が来るかもしれません。
これを実現するには膨大なデータが必要そうです…。

熟練者のノウハウの技術継承
生成AIによるナレッジ活用の事例のように、潤滑剤の評価で紹介したようなフレークやリゼクションの状態を見て判断する技術は、経験の長い方でないとなかなか判断が難しいものです。
こうした判断基準を画像とともにデータ化していくことで、AIによる技術継承のヒントになるかもしれません。
伸線加工でAI活用を進める上での課題
しかし、伸線加工の現場でAIを導入するにはいくつかの課題もあります。
上記で紹介したJFEスチールのような、大手の大規模な投資は、中小企業には現実的ではありません。またAIに学習させるためのデータそのものが、社内に十分蓄積されていないという会社も多いのではないでしょうか。
そのため最初から大掛かりなシステムを目指すのではなく、まずは伸線本数やダイス交換履歴、潤滑剤の使用状況といった、日々の記録を残すことから始めるのが現実的な一歩だと思います。
記録を残すというのが一番大変な作業なんですけどね。
伸線加工とAI活用 まとめ
今回は他の金属加工業界でのAI活用事例をもとに、伸線加工でAIをどのように活用できそうかを考えてみました。
外観検査、設備の予知保全、加工条件の最適化、技術継承など、伸線加工にも応用できそうな領域は意外と多くあります。
いきなり高度なAIシステムを導入するのは難しくても、日々の記録を積み重ねていくことが、将来的なAI活用への第一歩になるかもしれません。
この記事が、伸線加工とAI活用について考えるきっかけになれば幸いです。



